ラグビーの代名詞とも言えるスクラム。
大男が鬼の形相でおしくらまんじゅうやっているくらいにしか見えない人や、
ところでスクラムって何しているの?と不思議に思っている人、
ボール出すだけなら、さっさと組んで、さっさと出せば。くらいに思っている人のためにスクラムを説明します。
いつ組むの?
スクラムは、ノック・オン Knock On(ボールを前に落とす)やスロー・フォワード Throw Forward(ボールを前に投げる)の軽い反則、団子(密集:モール Maul、ラック Rack)になってボールが出なくなった時、ペナルティのに組みます。ペナルティ、フリーキックの時にもスクラムを選択出来ます。
反則が無かった側がボールを入れる。密集でボールが出ない時、アンプレイヤブル Unplayableは、モールは持ち込んだ側と反対ボール、ラックの時はボールを持ち込んだ側のボールとなります。
どうやって組むの?
さて、スクラムですが、反則のあった地点で組みます。スクラムの最前列は三人(プロップとフッカー)とルールで決まっています。更に二列目は二人(ロック)、三列目はフランカーとNo.8です。
最前列の三人は頭を相手の頭の左側に入れて組みます。相撲の様におでこ同士でぶつかり合ってはいけません。
ボールの居場所
スクラムは反則された側がボールを入れて、スクラムの中を通り最後尾の足元(通常はNo. 8)からボールを出します。反則があった地点からボールを攻撃するだけなのに。
たった数秒、数メートルのことなのに、スクラムに人生をかけているプレーヤーが何人もいます。ただボールを出すだけでしょ。と思うかもしれませんが。
スクラムの中にボールがある間は、何人たりとも(手で)ボールに触れることは出来ません。実際は、足でボールを掻いて誘導をします。
スクラムの中にボールがある間は、スクラムを押すと前に進めます。ボールが横に出たり、相手側に蹴ってしまわない様にきちんと誘導します。最後尾にいるNo. 8の足元でボールをコントロールしてから押します。
高校生以下のスクラムは、基本 押してはいけませんが、大学生以上になると真っすぐ押せれば制限はありません。最後尾から追加のプレーヤーが加われます。
なんで押すのか?
スクラムを押すということは、陣地が前に進むこと以上にゲームを優位に進めることが出来ます。相手ディフェンスの出足を停め、味方の攻撃が優位に出来ます。
反対にディフェンスの時にスクラムを押せると、ボールにプレッシャーをかけられます。ボールを出すのにプレッシャーがかかり、正確なボール出しが難しくなります。パスが乱れるとバックスの攻撃も乱れます。
ラグビーを始めてからずっとスクラムとは押されるもんだと思っていました。高校では、どうやって早くボールを出すかと言う練習をしていました。⑥左フランカーだったので、フッカーが掻いたボールを足で内側に入れるのも大事な役割でした。
スクラムが押されているとヤンボー Your ball(相手ボール)の時は、No. 8のサイド攻撃へのタックルが遅れて、前に出られてしまうんです。
社会人になっても、フォワード、スクラムの強いチームのOBに来てもらって、プロップは地獄の様な特訓を受けていました。フランカーも横にへばりついているだけでなく、押すことを教わりました。
こんなに大切なことを、外から見ているとなかなか判らないものです。その位、スクラムが弱いと言うことは致命的なのです。
縁の下の力持ち
昭和60年(1985年)頃のテレビのドキュメンタリーで明治大学ラグビー部のスクラムで三番の右プロップが鍛えられている映像で、お前が1cm下がると、バックスは1m下がることになるんだ。と言われていました。
精神的にもスクラムで負けていると、フォワードは嫌なもんです。又、スクラムかと。
ゲームの前日にニンニクを食べたり、一週間くらい髭をそらないでジョリジョリさせておくなど、対面に嫌がられる様な涙ぐましい努力をしていました。
マイ・ボールが確保出来ないと、攻撃出来ない。攻撃出来ないと、得点出来ない。得点出来ないと負ける。と負の連鎖です。
かつての日本代表も華麗な展開が出来るバックスがいるのに、スクラムでやられて、隠し玉のままと言う悔しいゲームが沢山ありました。
ところが、スクラムで勝てる様になると、マイ・ボールが確保出来る。ボールを確保出来ると攻撃出来る。攻撃出来ると得点出来る。得点できると勝てる。と正の連鎖となり言いことだらけです。
目立たないがエンジンはロック
スクラムは最前列のプロップが押していると思っている人が多いですが、プロップは姿勢を作っていて、押すのは二列目のロックの役割です。
プロップは後ろからの押しを相手に伝えるために、真っ直ぐな姿勢になることが理想的です。お互いにそう思っているので、自分の姿勢を保つために相手の首を取って姿勢を崩します。
ゲーム中のスクラム
現在のテスト・マッチ(国代表同士のゲーム)では、1試合のスクラムは13回と、以前より少なくなっています。(2015年ラグビー・ワールドカップより)
ハンドリングが格段に良くなって、ハンドリング・エラー(軽い反則:ノック・オン、スロー・フォワード)が減ってきているからです。
スクラムが弱いチームは、バックスがノック・オンすると、フォワードに怒られました。スクラムになるとフォワードが押されて、バックスが怒り、また負の連鎖です。プロップも三年もやると辛抱強くなって性格が穏やかになるもので、自分からはあまり怒りません。
そんなこだわりのあるスクラムに注目してみると、ラグビーの違った楽しみ方が出来ますよ。
冷蔵庫の様なガタイのプロップ、フッカーに注目してみて下さい。