ラグビーはキックで陣地を取り、相手陣に入ってキックを重ねると言うのがオーソドックスな戦い方でしたが、速攻を武器にして走り回るのは観ていてもとても楽しいのですが、やる方は大変なのです。
PからGo
ラグビーのゲーム中の動きを分析して、プレーの継続時間とその間の動作から、ラグビーのプレーに必要なランニング・スキルを明確にして、トレーニングにより心肺機能とフィットネス・スキルを鍛え上げ、現在のラグビーの基礎となるランニング・ラグビーを始めたのが、PからGoのキャッチ・フレーズで日本一になった東芝府中(現、東芝ブレイブ・ルーパス)でした。
PからGoとは、反則ペナルティがあった時に、速攻で仕掛ける。例えゴール前であっても、Pペナルティ・キックから、Go速攻で仕掛けると言う、SHスクラム・ハーフ村田亙のスピードを最大限に活かしたアタック攻撃方法でした。
元日本代表FBフル・バックの向井昭吾監督(東芝府中の監督のあと、日本代表の監督として2003年のラグビー・ワールドカップを指揮、コカ・コーラの監督、GMを務める)の下、日本代表のHOフッカー薫田真広(現、日本代表強化委員長)、SHスクラム・ハーフ村田亙(フランスのバイヨンヌ、ヤマハ、現、専修大学監督)、キャプテンのCTBセンター、アンドリュー・マコーミック(釜石、関西学院大学、摂南大学でコーチを務める)、FBフル・バック松田努(現、女子ラグビー松田塾ヘッド・コーチ)とそうそうたるメンバーでした。
寝て起きて
その東芝府中が考え出したと言う当時の最新のランニング・トレーニングとは、寝て起きて。何とも日本的な名前でした。私達のチームもいち早く取り入れました。グラウンドの縦100mを90秒のインターバルで往復します。横のラインでお腹と胸を付けて腹ばいに寝ます。
ゴール・ラインからスタートして、22mライン、10mライン、ハーフ・ウェイ・ライン、10mライン、22mライン、反対のゴール・ライン、戻りも同じく、22mライン、10mライン、ハーフ・ウェイ・ライン、10mライン、22mラインでゴール・ラインに戻って来て、次のスタートまでは休憩です。
90秒以内に戻って来れば、早く戻って来た分、休めますが、90秒を切れないと、休みなく、戻って来たら、直ぐにスタートです。90秒間走り続け、11回、腹ばいに寝て、起きる練習です。
現役を引退してスタッフのマネージャーとしてラグビー部に携わっていたので、良く考えたなぁと感心しながら、苦しそうに走るプレーヤーを励ましていました。たまにプレーヤーに混ざって一緒に走りました。3往復目位までは、90秒以内に戻って来られましたが、それ以降は90秒を超えてしまいましたが、7往復を完走しました。
一回、90秒を切れないと、次は90秒を切ろうと頑張って走るのですが、遅れを取り戻すのは、難しく、気持ちが負けちゃいます。気持ちが負けない様に、監督やコーチが激を飛ばします。
スタッフも外れて、OBとして、練習に参加したことがあります。寝て起きてが10回になっていました。90秒を切れるのは2回か3回でした、プロップの一番遅いプレーヤーよりも遅かったですが、何とか完走はしました。
真っ暗闇
練習後に一緒に来ていたOBと飲みに行きます。走って汗かいた後の、生ビールは最高だなぁなんて、アフター・ラグビー最高って思い飲んでいました。お腹も満たされて、焼酎に切り換えた頃に目の前が真っ暗になりました。立ち眩みの様な感覚に陥り、暫くトイレを抱えていました。OBには過酷すぎる練習でした。
超人的な体力
東芝府中がV1を達成した頃には、合同練習にお邪魔したこともありました。元日本代表のWTBウイング戸嶋秀夫が監督でキャプテンはFLフランカーの花岡伸明さんでした。夕方の5時定時間になると、とてつもなく広い東芝の府中工場から自転車に乗ったラガーマンが、直ぐにグラウンドにやって来ます。
最初に3周グラウンドを回りストレッチ。私達のチームではストレートと呼んでいたキッカーがボールを蹴って、ハーフ・ウェイ・ラインくらいから4人一組でボールをキャッチしてつないでトライまでフォローして行きます。
3本位やって、府中のプレーヤーは大きくて速いなぁと思いましたが、ボールを貰えていました。ところが4本目から、じゃあトップ(スピード)との声が監督からかかります。唖然としました。府中のプレーヤーがボールを持って走り出したら追い付けません。体力の差を痛切に感じました。府中ではヘッド(ダッシュ)と呼んでいました。
ヘッドが終わるとフォワードとバックスが分かれて、私はフランカーだったので、バック・ローのグループで基礎体力の練習でした。ゴール・ラインから22mラインまで、かえる跳び、キャプテンの花岡さんは高く跳び、黙々とジャンプしています。跳ぶ高さと距離が桁違いで、繰り返す体力、とても同じ人間とは思えませんでした。良い勉強になりました。